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わたしのブログ

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続きです。

ビルの前に行ってみたら、三越大連支店と書いてある。中を覗くと品物はない。満人に取られてしまったようだ。近所に海苔巻きを売っていた日本人がいたので百円出して買うと、置いてある半分以上の海苔巻きを包んでくれたて、「ああ、今日は良かった。」と喜んでいた。この淋しそうなおじいちゃんはなんだか張りのない顔だった。このすしを手土産に大連運動場前まで歩くことにした。時間つぶしと道を覚える為だ。次は運動場前である。関東州庁も立派なものだ。運動場前に着てみると左側の隅に白菊荘アパートがあった。二階建てで下は床屋二階に行くと、鍵の手の突き当たりに竹野と表札があった。ここだろうと声を掛けてみると「ハイ」とドアが開いた。間違いなく先ほどの奥さんだった。
 私の顔を見るなり「アッ、やはりね。来たの。」当惑そうな顔だ。私はここで一番がんばらねばと「ほとほと困ったのできました。」と男らしく頼んで見た。「良く判ったわ。今、隣の奥さんとも相談してくるから待っていてね。」
 まもなく三人で廊下に出てきて、「三人で私の部屋に来てあなたの部屋を空けてあげればよいでしょう。」と話が決まった。竹野さんの部屋に入れてくれた。三人の奥さんも入ってきて「あなたの名前、なんと言うの?」と問われた。「片山といいます。」それから三人は「私、藤枝」「角田」「竹野」と名乗った。三人とも、出征遺家族で皆一人筒の子持ちだそうである。奉天から逃げてくる途中、仲間二人に死なれた事情を話した。「マァ気の毒に、うちの人も今どうなっているか。人事ではないわ。満人たち気が立っている心配だわ。無事でいてくれればよいが、今どこに居るのかしら?心細くなってきた。」と言い合っていた。
 私が飯代だといって五百円出すと「アラ、片山さん、お金持っていたの。」
と安心の色が顔に出た。「皆ですしでも食べましょう。」持ってきた寿司をその晩食べた、奥さんたちは私にタカラレルと思っていたらしい。「片山さん、下はニーヤン(満人のこと)の床屋だからきれいにしてきなさいよ。」と藤枝さんに言われた。早速下に行って、短い毛を裾刈りにして顔をそった。「早く毛が伸びないかなぁ。」とチックを付け、櫛を入れてみたがちょっと無理だった。ニーヤンは笑いながら「オー、いい男になったよ。」とお世辞を言った。私はこのときいくら払ったかは覚えていない。


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